【小説】朝日が昇るところ (4)
「それにしても」と恩人は何気なく尋ねた。
「いつもお前は、風景写真の評価をされると不機嫌になるのな。人物写真見たことないけど、撮らないのか?」
「撮ったことがないわけじゃないよ。いまいちピンと来ないだけ」
僕がそれきり黙ったので、武川もそれ以上は訊かなかった。僕は再び窓の外に目を転じる。さっきと同じように、車が走り続けている。
風景写真だって、ピンと来ないことには変わりないのだ。
ずっと、探している。あの時と同じ輝きを、僕はずっと探し続けている。
***
「ルミ。六時半だよ。起きて」
ベッドで眠っているルミに、声をかける。寝ぼけ眼のルミは、きびきびした普段の姿とは違っていてとてもかわいらしい。まだ意識がはっきりしないまま、ルミは薄目を開ける。
「……うん。守、もう行くの?」
「ああ。散歩に行ってくる。鍵は閉めていってくれていいよ」
額にキスをして、僕は家を出る。彼女には、この毎日の習慣はただの散歩だと伝えてある。被写体を探すため、と言ったら、それ以上は詮索されなかった。
昨日よりも日の出の時間が遅くなったように感じる。おそらくそれは気のせいなのだが、何となく昨日よりも暗いように思える道を、僕は一歩一歩進む。
一〇年以上もの間、飽きずに同じことを続けている自分に驚いてしまう。今更、あの河原に現れるはずがないと頭では分かっているのに、それでももしかしたら、という思いを僕はどうしても捨てきれない。馬鹿みたいだけれど、探し物を見つけられないうちは、僕は前に進めない。
今日も、河原には誰もいなかった。
がっかりしたような、最初から分かっていたという諦めのような複雑な気持ちのまま、僕はいつもの石の上に座り込んだ。
昇り始めた太陽が川を山吹色に染める。
僕は、少し目を細めて太陽を見つめる。あの時、彼女はあのあたりで歌っていたのだ。
高校三年生の三月、その夜僕は一人でひたすらお酒を飲んでいた。大学受験にすべて失敗してしまったのだ。
子供っぽいが、僕にとってはヤケ酒のつもりだった。高校を卒業して大学に行くのが当然だと思っていたのに、突然それを取っ払われてこれからどうしたらいいのかまったく分からなくなった。もう一年勉強して、という気分にはなれなかったし、現実問題それは親にも言い出しにくかった。
居酒屋を何軒も回って、明け方まで飲み続けた。店を出ても、まだ真っ暗だった。まだ帰りたくなかった。飲みすぎてぐらぐらになった頭を抱えて適当に歩き続けると、不意に視界が開けた。河原だった。
ふらふら歩くと、大きな石につまづいてしまった。何だか、すべてが馬鹿馬鹿しくなってきた。僕はそのまま石の上で眠ってしまった。
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