【小説】朝日が昇るところ (1)
いきなりなんですが。
私、二十代前半までは小説家になりたいと思っていて、あれこれ小説を書いていました。
ほとんどワープロで打ったもので、今となっては一部が紙で残っているだけなのですが、先日部屋の大掃除をしているときに8年くらい前に書いた小説が出てきて、ちょっとしみじみ。
なんで8年前の自分はこんな話を書こうと思ったのかなあ、と小説の主人公と同い年になった今になって不思議に思ったり。
おかしいところも多々あるものの、今、残しておきたくなりました。
というわけで、これからしばらくの間、この小説を不定期にアップして行こうと思います。
(紙の原稿を手入力し直しているので、少しずつになります。すみません…って誰も読まないかも…)
内容にはほとんど手を加えていませんが、タイトルだけはある方からアドバイスをいただいて変更しました。
どれくらいかかるかわかりませんが、お付き合いいただけるととても嬉しいです。
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ずっと探しているものがあった。
どこにいても、何をしていても、頭の片隅ではいつも探していた。
空を見上げた時、水をのぞき込んだ時、それは不意に蘇り、僕はそのあまりの鮮やかさに目眩を覚える。
あれからもう、十年以上たっているというのに。
あの頃見た他の物は全て色褪せてしまったのに、あの景色だけは、どんなフィルムよりもはっきりと脳裏に映し出されるのだ。
僕は目を閉じる。
あの瞬間の気持ちに身を漂わせるために。
写真家のような仕事をしている者は生活が不規則だとよく言われるが、必ずしもそうではない。少なくとも、僕自身の生活は単調に流れている。
「守はサラリーマンにもなれるんじゃない?」
恋人のルミに言われたことがある。その根拠は、毎日起きる時間も食事の時間も寝る時間も一定というだけなのだから、会社員には失礼な話だけれど。
規則正しい生活は、最初は必要に迫られて始めたものだった。というと語弊があるかもしれない。つまり、あの頃僕は毎日同じことをしなければならなくなっていたのだ。それは、ある意味強迫観念に近かった。しかし、それは形を変えないままいつのまにか単なる習慣に中身を変えていった。今は、ルミが言う通り、僕は会社員にもなれるような生活を繰り返しているに過ぎない。
前日どれだけ遅くなっても、六時には目を覚ます。隣にルミが眠っているときもある。彼女の住むマンションは家から徒歩一五分のところにあって、互いの家で夜を明かす日も多い。朝食を作ると六時半。それからルミを起こす。一緒に眠らなかった日は、同じ時間に電話をする。
そして、僕は一人で外に出る。リュックの中にはカメラが入っているだけだ。ゆっくり、一歩一歩歩みを進める。歩いているときに自分が何を考えているかは、正直分からない。楽しい気持ちだけでない気がする。
その河原に着くのは、七時前だ。だんだん日の出が遅くなってきていて、登りたての朝日が水面に光を注いでいる。
河原には誰もいない。どちらを向いても人ひとり見当たらない。どこか現実感が無い風景を半ば諦めたような気持ちで見つめてから、僕は近くの岩の上に座り込んだ。
僕は今日もそうして、もう何年も待ち続けたものを、同じように待つ。
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