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2011年2月10日 (木)

【小説】朝日が昇るところ (6)

***

 打ち合わせのために仲ギャラリーに着くと、仲本人が笑顔で出迎えてくれた。
「わざわざ申し訳ありません。外は寒かったでしょう。コーヒーか何か飲まれますか?」
「いえ、お構いなく。あの、見せていただいてもいいでしょうか?」
 例によって堅苦しい挨拶が苦手な僕は、ひどく不躾に用件から入ったのだが、仲は気に障った様子も見せずギャラリーを案内してくれた。
 決して広くはないギャラリーだ。壁紙はクリーム色で、天井には照明機器が控えめに配置されている。どこにでもあるギャラリーのようだが、手入れが行き届いていて持ち主の愛情が伝わってくるような気がした。
「……いいギャラリーですね」
 ぽつりとつぶやいてから、失礼な発言だったかと気がついた。僕なんかに言われては嫌味だったかもしれない。しかし、慌てて振り返ると、仲は満面の笑みを浮かべていた。
「そう言ってもらえるとね」と仲は部屋を見回した。
「この商売やってて良かったって思うんですよ。このギャラリーは、君のような人たちに使ってもらいたくて、作ったんです」
『仲さんはこの世界では相当ましな方だぞ。名の売れていないアーティスト側の要求にも耳を傾けてくれるし』という武川の言葉がよみがえった。そうか、と心の中で返事する。武川さん、本当にそうだったみたいだ。
 そんな僕に気づいた様子もなく、仲はしばらく部屋を見つめてから、「ゆっくり見ていってくださいね」と出て行った。
 僕は、ゆっくりと部屋を一周した。不思議にイメージが湧いてくる。この場所にはこんな写真を、あの場所には……と頭の中で次々に写真は決定していった。
 一番奥に着いたとき、一瞬そこにライトが当たっているのかと思った。そこだけ雰囲気が違うのだ。太陽の光さえ差し込まないギャラリーの中で、その感覚はおそらく錯覚なのだろう。なのに、どれだけ見つめ続けてもその印象は消えなかった。
 こういう空間を仲はわざと作ったのだろうか。それとも、偶然できてしまったのだろうか。僕は、ずいぶん長い間そこに立ちつくしていた。この雰囲気には、覚えがあった。もう、何年も見続けている朝の景色。
 見終わって仲のもとに戻ったときには、僕の心は決まっていた。僕はずっとこうしたかったのかもしれない。
「実は」と僕は切り出した。「一枚だけ人物写真を展示したいんです」

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