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2011年3月 5日 (土)

【小説】朝日が昇るところ (9)

 明け方にはすっかり酔っ払っていた。外はまだ薄暗い。覚束ない足取りで、暗い道を進んだ。自分がどこに向かっているかも考えずに。
 気づいたのは、しばらく歩いてからだった。このまま行くといつもの河原だ。こんな日にさえもいつもの習慣が出てしまう自分に、苦笑するしかない。どちらにしても他に行くあてもないので、そのまま進むことにした。途中でカメラを持っていないことに気づいたけれど、それもどうでもいいと思った。どうせ今日もいるはずがないのだから。
 ところが、河原に近づくと、微かな歌声が耳をかすめた。幻聴? いや、耳を澄ませてもたしかに聴こえる。まさか。心臓が高鳴った。もつれてうまく動かない足で河原まで走り始めた。だんだん声が大きくなる。角を曲がると、視界が開けて河原が見渡せた。見回して声の源を探す。
 そこにいたのは子供たちだった。薄明の中、一〇人くらいの小学生が合唱の練習をしている。
 ……そりゃそうだよな。
 力が抜けて近くの石に腰を下ろした。無理に走ったせいで頭がくらくらする。しばらく座っていることにした。
 子供たちは、僕に気づく様子もなく練習を続ける。まだ薄暗いので、姿ははっきりと見えない。同じフレーズを繰り返し歌っているようだ。時々「ちがう」とつぶやく声が聞こえる。どこに引っかかっているのだろうか。最初はぼんやり眺めているだけだったが、歌声が持つ一所懸命な響きに、次第に引き込まれていった。知らず知らずのうちにこぶしを固く握りしめる。頑張れ。
 三〇分ほどそうしていただろうか。突然、東から光の線が差し込んだ。一本の線があっという間に広がって淡い光になる。川の水に、砂の一粒一粒に、太陽の光が反射する。辺りは柔らかい山吹色に包まれていく。
 僕は、ハッとして立ち上がった。子供たちが、輝いている。
 山吹色の光に負けないくらい、子供たちは輝きを放っていた。僕は、指でファインダーを作って、彼らをのぞき込んだ。
 あの時と同じだ。
 カメラを持っていなかったのが悔しかったけれど、それよりもようやく「輝き」に出会えた喜びのほうが大きくて、僕は拍手をした。子供たちはびっくりして振り向いたが、構わずに心から拍手を送り続けた。

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