【小説】朝日が昇るところ (11)
気持ちを振り払って、僕は立ち上がった。もう一度会場を回ってみようと思った。
誰もいないギャラリーの中で、写真を一枚ずつ見ながら進んでいく。一枚目は夜の写真。環状線を走るたくさんの車の光。あのときは、オレンジ色の光が夜の空気に反射していろいろな方向に散らばっていた。その非現実的な風景を残したいと思ったのだ。その隣は、町中に咲く一本の桜の写真。花見客がたくさんいる豪華な桜並木から一本裏道に入ったら、桜が一本だけぽつりと立っていた。誰も見ていなくても同じように花を目一杯咲かせるその様子が切なくて、カメラを向けたのだ。
――風景写真がすばらしいと褒められたって、嬉しくはない。風景を撮っているのは成り行きだし、別に心から撮りたい被写体というわけではない。
ずっとそう思っていた。いや、最初は本当にそうだった。でも、そう思いつつも、カメラを向ける瞬間の自分は、それが人物か風景かなんて考えず、ただ目の前のものに惹きつけられていたはずだ。最初に崇高な動機なんてなくても、自分は確かにこの四年間駆け抜けてきた。自分の作ってきたものなんて振り返ったこともなかったけれど、今この場所にいると、感じる。積み上げてきたものは確かにあるのだと。
ルミの顔が浮かんだ。彼女とはあれから会っていない。電話さえしていない。手遅れになってしまうと焦る気持ちもあるが、何を話せばいいのか分からないのだ。
あれからずっと考えていた。これからどうすべきなのか。ルミが望むように結婚すべきなのか、今の付き合いを続けるべきなのか、それとも別れるべきなのか。でも、どれだけ考えても分からない。自分で分かっている気持ちはひとつだけだ。このまま終わってしまうのかもしれないと考えると、胸が締め付けられる。
「彼女」の写真のある、ギャラリーの突き当たりに向かう。誰もいないと思っていたが、いつの間にか女性が写真を眺めていた。邪魔にならないように少し離れたところに立って写真を見つめる。
あの日、なぜ子供たちに彼女と同じものを感じたのだろうか。今まで一〇年以上探してきた「輝いている存在」。なぜあの時、突然それが現れたのだろうか。
僕は今まで、本当は何を探していたのだろうか。
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ようやく再開…。あとわずかですがお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
つづきはこちら。
はじめから読みたいと思ってくださる方(いらっしゃれば…)は、こちらからどうぞ。
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