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2020年12月 2日 (水)

誰に泣かされているのか

昨日の朝聞き終わった。

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『火花』又吉直樹・著、堤真一・朗読。

恥ずかしながら、原作自体読んだことがなかった。ドラマも映画も見ていない。
ずっと気になってはいたし、昨年末に尊敬する先輩翻訳者(ぼかす意味は…?)からこのオーディオブックの話を聞いてますます興味が湧いていたんだけど、結局購入に至ったのはAudibleのキャンペーンで700円になっていたから。

もうほんっとーーーーーにすみませんでした! もっと早く読めばよかった。

物語は、売れない若手漫才師の徳永が、熱海の花火大会のイベントで出会った漫才師の神谷を師匠と仰ぐようになるところから始まる。
天才に憧れつつ届かない徳永にとって、破滅型の神谷は天才だと映る。だが、現実の神谷は全く売れず借金も膨らむ一方で、徳永は少しずつテレビへの出演機会を得ていく。
最終的には、徳永は芸人を引退し、神谷は大変なことになり、出会ったのと同じ熱海の温泉で物語が終わっていく。

最初から最後まですごかった。
徳永が神谷に対して抱く感情の揺れ動きも生々しいし、やりたいことと世間の評価が乖離する中で何を優先すべきかという話にも深く頷いた。引退って何なのかという話にも。
学生時代のバイト仲間が役者を目指していて、やっぱり生活が苦しくてたくさん借金もしていた。それでも今も努力を続けている彼は、私にとって羨望と畏怖の対象だ。私にはどうあがいてもそういう生き方はできなかったから。
スポーツ選手でも、自分が満足できるパフォーマンスができなくなれば辞めるという人も、ボロボロになるまで続けたい人もいる。
芸人は芸をしていなくても芸人、芸人に引退はない、と最初から最後まで話す神谷は眩しいけれど、そんな風に生きられなくて夢を諦めた日の自分を思い出して胸が痛む。

もちろん笑いも随所にちりばめられている。泣けるところも。
昨日の朝、もう外仕事に出かける時間だったのに、よりによって「常識を覆すような漫才」が流れてきて、声をあげて泣いてしまった。化粧し直しである。
で、泣き終わってから思った。今私は誰に泣かされたんだろう、と。
というのも、堤真一さんの朗読がとにかくすごかったんですよ。その場の雰囲気も感情も伝わってきて、声を聞いているだけでその世界に入り込んでしまう。もちろん又吉さんの原作に力があることが前提なんだけど、堤さんの声がその価値をもっと高めていて。
もし出版直後に活字で読んでいたとしたら、私はここまで感情を揺さぶられただろうか、とまで思った。今泣いているのは、どこまでが又吉さんでどこからが堤さんなのか。
いやまあ、そんなこと考えるだけ野暮なんですけど。
ただ、映画やドラマなど他のメディア展開でこんな風に感じたことは一度もない。原作が本なら、一番価値が高いのは原作だと疑ったことすらなかった。だから、こんな気持ちになっている自分にびっくりしている。

『わたしを離さないで』をオーディオブックで聞いたときにも(こちらは原作も読んでいたのに)衝撃を受けたのだった。どうやら、小説の朗読ってすごい力を持っているらしいぞ?
(以上の考察は、私がドラマ恐怖症(主人公がピンチになる展開を直視できない個人的症状(造語)。小説は大丈夫だけど映像だと本当に無理)であることの影響をだいぶ受けている気がするので、あくまで私に限定した話です)

それにしても、さっきふわっと書いたけど、朗読する声が高めた原作の価値って何だろうね。
たとえば、音楽のカバー曲が元の曲にないものを足していたらそれは一律によくないことなのか、何を足しているかによるのか。翻訳ならどうなのか。
もやもやした考えを残したままで、今日はおしまい。

■読書ログ■
・和書129:『火花』又吉直樹・著、文藝春秋、オーディオブック→読了
・和書131:『翻訳の授業 東京大学最終講義』山本史郎・著、Amazon(紙)、朝日新聞出版、紙の本
・和書135:『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』宮崎伸治・著、三五館シンシャ、電子書籍
・洋書13:ビジネス書(おしごと)

■勉強ログ■
・NHKラジオ講座:24分


君にいいことがあるように 今日は赤いストローさしてあげる♪

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